長年、社会問題として指摘され続けてきた保育士の低賃金問題。しかし、その状況は、国が主導する強力な政策介入によって、今、まさに大きな転換期を迎えている。深刻な保育士不足を解消し、保育の質を確保するため、政府は「処遇改善等加算」という制度を段階的に導入・拡充してきた。この制度を正しく理解することは、保育士が自らの給料の未来を予測し、キャリアを戦略的に築いていく上で不可欠である。処遇改善等加算とは、簡単に言えば、保育士の給料を上げることを目的として、国から保育施設に対して支給される補助金のことだ。これは、施設の裁量で他の経費に流用することはできず、必ず職員の賃金改善に充てなければならない。この加算制度は、これまで「加算I」「加算Ⅱ」「加算Ⅲ」という三つの柱で構成されてきた。まず、「処遇改善等加算I」は、職員全体の賃金水準を底上げ(ベースアップ)するためのもので、施設の平均勤続年数に応じて、職員一人当たりの給与に数パーセントが上乗せされる。次に、保育士のキャリアパスを明確にし、専門性に応じた評価を行うために導入されたのが、「処遇改善等加算Ⅱ」である。これは、国が定めた「キャリアアップ研修」を修了した保育士が、「副主任保育士」や「専門リーダー」といった新たな役職に就くことで、月額最大4万円、「職務分野別リーダー」であれば月額5千円という、大幅な手当を受けられる仕組みだ。これにより、経験を積んだ保育士が、明確な目標を持ってキャリアを継続できる道筋が示された。そして、記憶に新しいのが、近年の物価高騰などに対応するために導入された「処遇改善等加算Ⅲ」である。これは、全ての職員を対象に、月額9千円程度の賃上げを行うもので、保育現場の喫緊の課題に対応する役割を果たしてきた。これらの制度によって、保育士の給料は着実に上昇してきた。しかし、三つの制度が並立することで、仕組みが複雑化し、施設の事務負担が大きいという課題も生まれていた。そこで、2025年度からは、この三つの加算を一本化するという、大きな制度改革が実施される。この「一本化」は、事務手続きを簡素化すると同時に、施設側が、より柔軟に職員への賃金配分を決定できるようにする狙いがある。例えば、これまで「副主任保育士等一人に月額4万円」とされていた要件が緩和され、職員の貢献度に応じて、より弾力的に手当を配分できるようになる。この変化は、職員一人ひとりの頑張りが、より給与に反映されやすくなる可能性がある一方で、施設側の評価基準や運用方針が、これまで以上に重要になることを意味している。国の政策は、明らかに保育士の待遇改善へと舵を切っている。給料は、もはや「上がらないもの」ではない。この処遇改善の仕組みを正しく理解し、キャリアアップ研修の受講などを通じて自らの専門性を高めること。それが、国の後押しを自らの収入へと確実に結びつけるための、最も賢明な方法と言えるだろう。
保育士の給料は上がり続けるか、国の処遇改善政策の全貌と未来