保育士という専門職のキャリアパスにおいて、近年、ひときわ強い注目を集めているのが「企業内保育所」での勤務である。待機児童問題の解消や、女性活躍推進といった社会的な要請を背景に、従業員の子育てを支援するために企業が設置するこの新しい形の保育施設は、働き方の改善を求める保育士にとって、大きな魅力を持つ選択肢として浮上している。では、その魅力とは具体的に何であり、そこにはどのような現実があるのだろうか。企業内保育所の求人が人気を博す最大の理由は、その労働環境の良さにあると言っても過言ではない。一般的な保育園が抱えがちな、長時間労働や持ち帰り仕事、低い有給休暇取得率といった課題に対し、企業内保育所は明確な解決策を提示することが多い。運営母体である企業の勤務体系に準拠するため、土日祝日が休みで、ゴールデンウィークや年末年始に長期休暇を取得できるケースがほとんどだ。残業も少なく、定時で退勤できる環境が整っているため、プライベートの時間を大切にしながら、心身ともにゆとりを持って保育に専念することができる。これは、自身のワークライフバランスを重視する保育士にとって、何物にも代えがたいメリットだろう。また、給与や福利厚生の面でも、企業の安定した経営基盤が大きな安心感をもたらす。昇給や賞与が企業の規定に沿って確実に支給され、住宅手当や退職金制度などが充実していることも珍しくない。保育という仕事に誇りを持ちながらも、将来の生活設計に不安を感じていた保育士にとって、その専門性が正当に評価され、安定した処遇を受けられる環境は、長くキャリアを築いていく上での強力なモチベーションとなる。さらに、保育の質そのものに関わる環境も魅力的だ。企業内保育所は、定員が十数名から三十名程度の小規模な施設が多い。これにより、保育士一人当たりが見る子どもの数が少なく、子ども一人ひとりの個性や発達にじっくりと向き合う「手厚い保育」が実現できる。日々の業務に追われることなく、子どもの些細な成長や変化に気づき、丁寧に関わることができる環境は、保育士として理想とする保育を追求したいと願う人にとって、大きなやりがいを感じさせてくれるはずだ。保護者との関係性も、一般的な保育園とは少し異なる。利用する保護者は、同じ企業に勤める従業員であるため、一種の「同僚」のような連帯感が生まれやすい。互いの働く環境を理解しているからこそ、信頼関係が築きやすく、クレームなども少ない傾向にある。もちろん、全てが理想郷というわけではない。企業の業績によっては、運営が不安定になるリスクもゼロではないし、小規模ゆえに多様な年齢の子どもと関わる経験が積みにくいといった側面もある。しかし、それを差し引いても、企業内保育所が保育士にとって、自身の専門性を活かしながら、より人間らしい、持続可能な働き方を実現するための、希望に満ちた新たなフロンティアであることは間違いないだろう。