保育士の仕事と聞いて、多くの人が子どもたちと一緒に歌ったり、遊んだりする姿を思い浮かべるだろう。そのイメージは決して間違いではないが、仕事内容のほんの一端を捉えたものに過ぎない。保育士の一日は、子どもたちの命を預かり、その健やかな心身の発達を専門的な視点から支えるための、緻密に計画された業務の連続なのである。その一日は、園児が登園するずっと前から始まる。まずは、子どもたちが一日を安全かつ快適に過ごせる環境を整えることからスタートする。室内の換気、清掃、そして遊具や施設の安全点検は、毎朝欠かすことのできない重要なルーティンだ。些細な危険の芽も見逃さない、鋭い観察眼が求められる。子どもたちが登園してくると、保育士の仕事は一気に加速する。一人ひとりの子どもを笑顔で迎えながら、その表情、顔色、機嫌などを瞬時に観察する「視診」を行い、健康状態を把握する。同時に、保護者からの連絡事項に耳を傾け、家庭での様子を共有してもらう。この朝の数分間のやり取りは、その日一日の保育の質を左右する貴重な情報交換の場となる。午前中の主活動は、保育士の専門性が最も発揮される時間だ。例えば、戸外活動で公園に散歩に行くとしよう。これは単なるお出かけではない。そこには、季節の移ろいを肌で感じ、草花の匂いや虫の声に触れることで五感を刺激し、子どもの感性を育むという明確なねらいがある。友達と手を繋いで歩くことで交通ルールや社会性を学び、起伏のある道を歩くことで身体機能の発達を促す。保育士は、こうした多様な発達のねらいを一つの活動の中に織り込み、子どもたちの興味関心を引き出しながら、安全管理に万全の注意を払うというマルチタスクをこなしているのだ。昼食の時間は、栄養を摂取するだけでなく、「食育」の重要な機会となる。食材の名前や栄養について語りかけ、苦手な食べ物にも挑戦してみようという意欲を引き出す。スプーンや箸の正しい使い方を根気強く教え、アレルギーを持つ子どもへの誤食が絶対に起きないよう、細心の注意を払う。午睡の時間も、ただ寝かしつけているわけではない。子どもたちが安心して眠れるよう静かな環境を整え、睡眠中も呼吸や顔色を数分おきにチェックし、その記録を残す。これは、乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクから子どもたちの命を守るための、極めて重要な業務である。子どもたちが降園したあとも、保育士の仕事は終わらない。その日の出来事や子ども一人ひとりの成長の記録を「保育日誌」に詳細に記述し、保護者への連絡帳を書き、翌日の活動の準備や教材作成を行う。さらに、週案、月案、年間の指導計画といった、長期的な視点での保育計画の立案も行う。これらの膨大な事務作業が、日々の質の高い保育を支えている。保育士の仕事は、表面的な華やかさの裏で、発達心理学や保健衛生、安全管理といった専門知識を総動員し、子どもの未来を創造する、尊くも重い責任を伴う仕事なのである。
子どもの育ちを支える専門性、保育士の一日に見る仕事内容の深層