すべての子どもが、その生まれ持った個性や特性にかかわらず、共に育ち合う社会。その理想を、保育の現場で実現するために不可欠な存在が、「加配保育士」である。この言葉を初めて聞く人もいるかもしれないが、彼らは、現代の多様性を尊重する保育において、まさしく「要」となる専門職だ。「加配」とは、文字通り「加えて配置する」ことを意味する。保育園やこども園には、国が定める基準によって、子どもの人数に応じた最低限の職員配置数が義務付けられている。加配保育士とは、その基準員数に「加えて」配置される保育士のことを指す。その目的は、クラスの中に、発達の遅れや障がい、あるいは、特に手厚い配慮を必要とする特性を持つ子どもがいる場合に、その子が集団生活に円滑に参加し、健やかに成長できるよう、専門的な支援を提供することにある。この仕組みは「加配制度」と呼ばれ、多くの場合、自治体が、特別な支援を必要とする子どもを受け入れる施設に対して補助金を出すことで、加配保育士の人件費を賄っている。つまり、加配保育士の存在は、単なる園のサービスや思いやりではなく、すべての子どもが地域の保育園で共に育つ権利を保障するための、公的な制度に裏打ちされたものなのだ。加配保育士の最も重要な使命は、担当する子どもと集団とを繋ぐ「架け橋」となることである。彼らは、決して特定の子どもに付きっきりになる「個人指導員」ではない。その目的は、子どもがクラスの一員として、他の子どもたちと同じ空間で、同じ活動に参加し、その中で喜びや達成感、そして時には葛藤を経験しながら、社会性を育んでいくことを支援することにある。例えば、集団での活動が苦手な子に対しては、その子が安心できるような環境を整えたり、活動の手順を絵カードなどで視覚的に分かりやすく伝えたりすることで、参加へのハードルを下げる。友達との関わり方が分からず、孤立しがちな子に対しては、そっと間に入り、遊びのきっかけを作ったり、コミュニケーションの仲立ちをしたりする。その支援は、常に「本人が自分でできる力を引き出す」ことを目指しており、過剰な手助けで子どもの自立の機会を奪うことのないよう、絶妙な距離感を保つことが求められる。加配保育士は、障がいや特別なニーズに関する専門的な知識を基に、その子の「できること」と「苦手なこと」を深く理解し、その子にとっての「最善の利益」とは何かを常に考え続ける。そして、その存在によって、クラスの他の子どもたちもまた、多様な個性を持つ他者と共に生きることを、ごく自然なこととして学んでいく。加配保育士の配置は、単に一人の子どもを支援するだけでなく、クラス全体、ひいては園全体の保育の質を高め、多様性を認め合う豊かな人間関係を育む土壌を耕す、インクルーシブ保育の実現に不可欠な、極めて重要な役割を担っているのである。
インクルーシブ保育の要、加配保育士の役割とその重要性